まず第1にお客さんの身になって、どう仕上げたら喜んでいただけるかを考える。そして掛け軸や額等の場合は、本紙(中身)が主役なのでその雰囲気をいかに出すか又どうすれば見栄えがよいか、それに多少はヒンよく(上品に)仕立て上がるかいつもいつも執着しています。
■ 少年時代
小学校3年生の時より住み込みの職人(兄弟子)と同じ部屋で寝起きを共にし、学校から帰宅すると、貼替えの障子を洗ったり、外した襖の縁を拭いたりと、する事は沢山ありました。その手伝いが終わらぬと、遊びにいけませんでしたので、どうしたら綺麗に、早く終わらせられるかを、いつも考えていました。
時々は、1日3時間しか眠らず仕事をしている父や、妹を背負って家事と仕事の手伝いをしている母の姿を見て、もっともっと手伝わなければいけないと思いましたでも、やっぱりあそびたかったですネ。
■ 職人になるきっかけ
私が生まれたとき、祖父は母に向かって手を付いて「3代目を生んでくれて、ありがとう」。と言ったそうです。その祖父も、私が1歳の時に、亡くなってしまいましたので本当かどうかかくにんはできません。また、「お盆に、あの世からおじいちゃんが帰った時、店が無くなっていたら、がっかりするぞ」。と父に言われました。それを聞いたとてもまじめな私は、「これじゃあ店を継がない訳にはいかない」。そう思ったのが、8歳の時でした。
■ 職人になってから現在
高等学校を卒業した後、2年間表具師の学校にいかせてもらいました。その学校の先生方は東京の一流の表具師の親方ばかりでした。その方々の仕事を見ると、1つの作業でもなんと色々なやり方があるものだと感心しました。又、難しい仕事の講習会があると聞くと、日本中何処でもいきました。
かつては仕事は、同業者には見せたり教えたりはしないものでした。私はいい時代に職人になれたと思います。そのおかげで、国宝や重要文化財の修理を専門になさっている親方からもいろいろおしえていただきました。もちろん1番の師匠は父ですが、この方法はよいなと思った作業方法はこっそりやる事もあります。
■ 職人哲学
表具師の業界では、80歳を越えて「現代の名工」の指定を受けられた親方が、90歳を過ぎて、今尚、現役でお仕事をされています。40歳を過ぎたばかりの私など、「小僧さん」から「若手職人」になったばかり。これから「中堅」「ベテラン」となっていくつもりです。ですから、私が、どうのこうの言っても、「何を言ってやがる」。と笑われてしまうと思うんです。だから今は、「未だ解からず」としておきます。かっこつけすぎかな。
■ 私の目標・夢
月並みですがいろんな意味でいい仕事をし、先人より賜った技術、作品を改良努力して後世、次世代に残す。そして、「昭和、平成の職人は、馬鹿な事をしやがったな」と未来の職人に言われないようにしたいと思います。